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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(行ツ)110号 判決 1973年6月28日

名古屋市港区港陽町六八三番地

上告人

田中満雄

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

同市中川区西古渡町六丁目八番地

被上告人

中川税務署長 水谷信之

右当事者間の名古屋高等裁判所昭和四五年(行コ)第二一号所得税決定処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和四六年九月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹下重人の上告理由について。

論旨は、要するに、原判決が、本件売買契約において、上告人が本件土地を訴外瀬口菊五郎に引き渡したときに所有権が移転する旨の特約があつたとしたのは、法律行為の解釈を誤つたものであり、さらに、原審が、これを前提として、本件土地の所有権は昭和三六年二月ころ右訴外人に移転したものと認定し、譲渡所得の金額の計算上、本件土地の譲渡代金を昭和三六年分の総収入金額に算入すべきものと判断したのは、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下、旧所得税法という。)一〇条一項の適用を誤つたものであるというのである。

しかしながら、原審が確定した事実関係のもとにおいて、本件土地の売買契約には、本件土地を訴外人に引き渡したときに所有権が移転する旨の特約があつたとした原審の判断は、正当として是認することができる。この点に関する論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用することができない。

ところで、資産の譲渡に基づく収入金額は、旧所得税法一〇条一項による総収入金額の計算上、当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転した日の属する年分の総収入金額に算入すべきものと解するのを相当とするところ、原審が確定した事実によれば、上告人が本件土地を訴外人に引き渡したのは、昭和三六年二月ころというのであるから、本件土地の所有権が訴外人に移転したのも、前記特約により、そのころというべきであり、したがつて、本件土地の譲渡代金は、譲渡所得の金額の計算上、昭和三六年分の総収入金額に算入すべきものであつて、これと同旨の原審の判断は正当である。所論は、ひつきよう、その前提を欠くか、あるいは、右と異なる見解に基づいて原判決を非難するものであつて、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫)

(昭和四六年(行ツ)第一一〇号上告人田中満雄)

上告代理人竹下重人の上告理由

原判決の判断には、法律行為の解釈を誤つたため所得税法の規定を誤つて適用した違法がある。すなわち、

一、上告人がその所有の名古屋市港区港本町五丁目一〇番地の三の宅地二六九・七一平方メートル(以下本件土地という。)を訴外瀬口菊五郎に金一、五〇〇万円で譲渡した契約について、その成立の時期を昭和三五年三月ごろであると認定した原判決の判断は正当である。

二、しかしながら、原判決は、つぎの三点の事情を綜合して、右売買契約には、上告人が本件土地を訴外瀬口に引渡した時に所有権が移転する旨の特約があつたものと解釈した。

1 上告人は、本件土地の売却代金をもつて他の土地を買い入れて転居先の建物を建築するつもりであつたので、これが完成するまでは本件土地およびその地上建物に居住する必要があつたこと。

2 上告人は、本件土地について、前記売買契約成立後の昭和三五年四月四日債務者を合資会社山一商店とし、債権額金三〇万、期限を同三八年五月三〇日とする抵当権を設定したが、この抵当権の登記は昭和三六年三月まで抹消されなかつたこと。

3 上告人およびその家族の者は昭和三六年二月ごろまで本件土地上建物に居住してこれを使用していたが、前記売買契約成立後昭和三六年二月まで右土地・建物の使用の対価の支払いについて上告人と訴外瀬口との間になんらの約定もなかつたこと。

三、本件土地の売買契約には、その所有権移転の時期を契約成立の時以外の時とする旨の明白な合意はなかつたことは疑いの余地はない。原判決が右売買契約に前記のような特約が付されたものであると解釈すべきものとした前項の三点の事情のうち、

1については争わない。

2の抵当権設定の事情は原判決認定のとおりであり、上告人としては上告人主張のとおりの理由によつてこの設定をしたが、訴外瀬口から本件土地代金残額の支払いをうける前に抹消することができるならばこの抵当権設定によつて同人に迷惑をかける虞れがないと考えたので、特に同人の承諾を得なかつたし、現に同人不知の間に設定登記および抹消登記がされたのである。(なお本件土地には本件売買前に設定されていた訴外朝日浅次郎のための抵当権が存在したが、これを売買契約後昭和三八年三月まで存置させていたがこのことについて訴外瀬口から異議を述べられたこともなかつたということも、前記三〇万円の登記を安易に取り扱うにいたつた理由の一つである。)

3については、訴外瀬口と上告人の長年に亘る交友関係から出た好意、本件土地代金は完済されていなかつたが、上告人はその残代金の分割支払いについて利息の請求をしていないこと等の事情により、訴外瀬口は本件土地上の建物の無償使用を上告人に許していたものである。

以上を綜合すれば,原判決が、本件売買契約に前記のような特約が付されたものと解釈したことは、法律行為の解釈を誤つたものといわなければならない。

四、原判決は、誤つて、本件売買契約を前記のような特約が付されたものと解し、本件土地の所有権は、昭和三六年二月ごろ買受人に移転したものと認定し、本件土地の譲渡による譲渡所得の金額の計算上総収入金額に算入されるべき本件土地譲渡代金は、本件土地の所有権が移転した昭和三六年に属するものと判断したものである。

しかしながら所得税法(昭和二二年法律第二七号)九条八項に規定する譲渡所得の金額の計算上「その年中の総収入金額」は、同法一〇条一項により「その収入すべき金額」であるとされ、その収入すべき金額とは収入すべき権利の確定した金額であり、権利が確定したときは、その権利を行使することができることとなつたものと解される(昭和四〇年九月八日最高裁第二小法廷判決)ところ、上告人および訴外瀬口間において本件土地の売買代金が総額一、五〇〇万円と確定し、既往の借入金をもつて相殺した残額については、特に期限を定めず随時分割支払いをする約定が成立したのは、昭和三五年三月であること、原判決認定のとおりである。右一、五〇〇円は昭和三五年三月において、上告人の行使することのできる権利となつた(分割支払の同意により、同時履行の抗弁は放棄されたものと解すべきである。)ものであつて、所得税法上同年の収入金額とみるべきである。これを昭和三六年の収入金額であるとした原判決は所得税法の適用を誤つたものである。

以上

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